スレ田が好きです


※この話にはモブ×森田の表現が有ります。また森田が言いそうにもない台詞を言っています。
苦手な方はバック…! お願いだからバックっ…!






 都内某所の料亭。向かいに座るのはナントカと言う代議士。いつも同伴する人間はおらず、今日は一人だ。
 単なる根回しだから気張らなくていいとは言われていたが、それもどこまで本当のことか。
 あまりテレビを見ない森田でさえ何回か見たことのある顔だ、小さなヤマで使うには背後で動く金が大きすぎる。明らかに根回しだけではないだろう。
 森田の力を試していると言うのならば、もっと判りにくくするべきだ。

 形ばかりの会食を終え、ひと段落。
 やるべきことはやった。あとはこの男が実際に動くだけ。その為の弱みも掴んでいる。

「森田君」

「はい」

 できるだけ、愛想良く。
 腹の中で何を思っていても、表に出す馬鹿はしない。それが裏で長く生きるための処世術だ。
 今まであまり使うことのなかった表情筋を笑みの形に変え、男を見やる。

「そう構えないでくれたまえ。大したことじゃないんだ」

「はぁ…」

 先に森田の仕事は終わらせている。気のない返事になるのも仕方がない。
 だが、次に言われた言葉に森田は一瞬固まった。

「どうかね、一晩」

「……………」

 スーツの上からでも判る、体を舐め回すかのような下種な視線。
 森田は鈍くない。寧ろ、なるほどと思った。
 森田がこの種の視線に慣れていたこともある。仕事の合間に寄せられていた不躾な視線の意味はこれだったのだ。

 しかし抱かせろと言われても、特に何も感じない。
 同性に色を含んだ言葉をかけられて喜ぶ趣味はないが、気持ちが悪いとも感じない。気持ち悪いと思っていた頃は疾うに過ぎている。
 それに森田だって金と引き換えに男達を利用していたのだ。誰かを責める権利はない。同罪だ。

「…別に構わないですけど」

 しかし森田の答えに何を思ったのか、面白いものを見たかのように男はほうと呟いて、意外だと言った。

 一体、何が意外なのだろうか。
 目の前で森田を一人で行かせた理由の一つを考えれば。
 あの人ならば、この男の悪趣味を知るくらい造作もない。彼の側には敏腕の元新聞記者がいるのだから。

 ただ、裏切られたような、置いていかれたような気持ちだけは蟠る。
 平井銀二は、森田の一番近くにいるだけの他人なのに。

「君は平井君と寝てるのではないのかね?」

「…まさか。彼とはただのパートナーですよ」

「フフ、そういうことにしておこう」

 知った風な口を聞く男に苛々が募る。
 気付いただろう。”パートナー”という言葉に含まれる裏の意味に。なにせ言葉の裏を読むのが仕事のような連中だ。
 けれど知られたところで別に痛くもない。今こうして森田に圧し掛かっている男の方が、同性愛者なのだと世間に知られては困るのだから。
 余計なしがらみを身に纏った男はこれでも日本の中枢を支えている。そんな男の性癖が世間に知られた日には、ゴシップ好きの報道陣が放っておかないだろう。

「部屋が無駄にならなくてよかった」

 水墨画が書かれた隣の引き戸をからりとあけられると、判りやすく二つ枕が並んでいた。
 男はみしみしと鈍い音を立てながら敷居を跨ぐと、布団の横に立ち、上着を脱いでゆく。

「森田君」

「……はい」

 言葉に促されるようにして、森田の体が奥に消える。
 同時に、ネクタイから上着、シャツと森田の通った後に衣類が落とされてゆく。
 男の近くに寄った時には上半身には何も身に纏っておらず、肉で膨れた指が肩を押すのにも森田は抵抗せずに、大人しく布団の上に倒れた。

「随分と慣れてるな」

「慣れてない方が好みで?」

「いや、素人は耄碌爺の趣味だ。こなれた玄人の方が面倒がない」

 首筋を這う舌。
 玄人相手にこれはないだろう。自慢するような言葉とはかけはなれた、まるで蛇がのたうっているような稚技。

「君が素人でなくてよかったよ」

 男は森田が誰とでも寝るような男だと、内心では見下しているのだろう。
 仕事は終わっている。森田が帰っても問題はなかった。それなのに残ったという意味を。
 迫られたところで、こっちは弱みを握っているのだ。拒否しても問題はなかったと言うのに。

「あっ、あ…」

 気持ちよくはない。声を出してやるのはサービスだ。
 最近は女泣かせなテクニックを持つ男のせいで躯が慣れてしまい、誰だって同じような反応にしかならないだろう。
 以前ならば気持ちいいと思えた前戯にさえ、それだけでは反応しなくなってしまった。

「気持ちいいかね?」

「…ふぁ…はい………あの…先生っ、俺…もう……」

「随分と早いね。私に遠慮せず、いつでもいきなさい」

 一欠けらも己を疑っていない独善的な言葉に吹き出しそうになる。
 男の下で腰を揺らしながら考えているのは、別の人間の手技であるというのに。

「ん、んっ…は、い……っく…!」

 やがて視界が白くなって、堕ちる。

「はっ、森田、くん…っ」

「先生……」

 男は相変わらず森田の上で馬鹿のように腰を振っている。
 これを外から見たらどう映るのだろうか。豚の交尾? いや、それは豚に失礼だ。彼らは真面目に、精一杯生きている。
 けれど、豚という動物が下種な者たちの代名詞として使われるのならば、案外ぴったりの表現かもしれない。

「ねぇ…先生。俺、いい?」

「ああ、森田君……」

「もっと、抱いて下さい…先生のことしか考えられなくなるくらいに…」

 言葉では何とでも言える。中身のない愛を囁くことだって人間はできるのだ。
 離婚、堕胎にシングルマザー。行き場のない子供は何処へ行けば救われるのだろう。
 赤い糸なんて伝説を信じるには、現実は汚なすぎた。

 こうして森田が偽りの言葉を舌に乗せるだけで、目の前の男は顔を気持ち悪く歪ませて笑う。これが現実の終着点。リアルだ。



「…………吐きそう」



 肉の塊のような男には聞こえないように呟くと、森田は目を瞑った。

 見ろ、世の中は空っぽのアイで満ちあふれている。
 押しつぶされるように抱かれながら、今はいないパートナーの方が良いなと、ふと、思った。


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もはや別人です。反省も後悔もしてます…。