ふわふわとしたいい匂いがする。
こんがり焼けたトーストにあつあつの目玉焼き、潰したポテトの横には盛られたサラダ。
中でも特に漂ってくるのはコーヒーだろうか。
「ん、ん……」
朝起きてからすぐにする事は、コーヒーメーカーの電源を入れること。
ミルと一体型になっているコーヒーメーカーに豆を突っ込み、同時に浄水タンクに水を張れば、後は待っているだけでコーヒーの出来上がりだ。
顔を洗ってから食パンをトースターにセットして、目玉焼きを作る時間は十分にある。
長い一人暮らしで時間だけは体内時計で正確にはかれるようになっていたのに、一度人と暮らしてしまえば、そこには甘さを含んだ寝坊が待っている。
仕事の時は常に気を張っている状態を保たなければならないせいか、反動で普段がどうしても自堕落な生活になってしまう。
これではいけないと思いつつも、甘やかしてくれる人がいるから、つい甘えてしまう。
「銀さ―――」
バチリと目が開く。
最初に目に飛び込んできたのは”見慣れた”天井。そして敷きざらしの布団。
そこは、間違えようもない程に小さくて小汚い森田鉄雄の世界だった。
「…夢か……。…っ、逢いてぇよ…銀さん……」
森田が裏の世界から引退して、ちょうど半年のことだ。
